アンカリング効果とは、最初に提示された情報が基準となって、その後の判断や意思決定に大きな影響を与える心理的な効果のことです。本記事では、アンカリング効果をビジネスでの営業や交渉の場面でどのように活用できるか、また注意点やデメリットについて、わかりやすく解説していきます。
目次
アンカリング効果とは?
アンカリング効果とは、最初に提示された情報が無意識のうちに基準(アンカー:船の錨 anchor のこと )となって、その後の意思決定に大きな影響を与える一種の認知バイアスのことで、アメリカの研究者、ダニエル・カーネマンとアモス・トヴェルスキーが1970年代に行った研究により、広く知られるようになりました。
アンカリング効果は、その後も2000年代に至るまで、心理学だけでなく、行動経済学などさまざまな分野で研究が続けられてきました。私たちも、お店やオンラインでの買い物の際、こうした認知バイアスから日々、無意識に影響を受けています。たとえば日常生活でも、最初に高額の商品やハイスペックの商品を見ると、その後に見た商品が、相対的に安い、またはスペックが低いなどと感じた経験がみなさんにもあるのではないでしょうか。
この記事では、アンカリング効果をビジネスで活用するメリットや事例を紹介するとともに、注意する点やデメリットについて解説していきます。
営業マンがアンカリング効果を理解しておくことの重要性
では、ビジネスでアンカリング効果を活用する重要性とはどのようなものでしょうか?
日常生活で経験するような、金額の提示の仕方や順番の工夫はもちろんですが、特にBtoBにおける営業活動やマーケティングにおいては、まず自社の強みを顧客に理解してもらうこと、そして相手側の抱える課題の解決に自社が役立てることを、早い段階で印象付け、信頼を得やすくなる流れをつくることが非常に重要です。
そのため、営業マンがアンカリング効果について十分な理解と知識を学ぶことで、商談を有利に運びやすくなるでしょう。
フレーミング効果」や「プライミング効果」との違いは?
ここで、同じくビジネスやマーケティング活動の中でよく使われる「フレーミング効果」「プライミング効果」との違いが気になった方もいるのではないでしょうか?
フレーミング効果とは「同じ情報でも、表現の仕方を変えることで印象が変化し、意思決定に影響を与える効果」のことです。こちらも日常生活でよく経験されるのではないかと思います。
また、プライミング効果とは「あらかじめ受けた刺激(情報)により、その後の行動が影響を受ける」ことで、英語の動詞prime(前もって準備する、用意する)からきた言葉です。
どちらもアンカリング効果と似ているように思えますが、それぞれの違いをわかりやすく示すと下記の通りになります。
用語 | 効果 | 具体例 |
---|---|---|
アンカリング効果 | 最初に提示された情報が判断に影響 | 通常価格とセール価格ならどちらを選びたくなる? etc. |
フレーミング効果 | 情報の提示の仕方が判断に影響 | 「成功率が95%」と「失敗率が5%」のどちらが興味を引かれる?etc. |
プライミング効果 | 情報の提示内容が判断に影響 | ある情報を見た後は、無意識にそれに関する情報を選ぶ傾向が生じる etc. |
アンカリング効果を営業で活用する際のポイント
では実際にアンカリング効果を営業や交渉に活用する際、どのようなポイントを押さえておくべきなのでしょうか。
最も重要なのは、ビジネスにおいての基本ではありますが、顧客の情報収集です。顧客がいま何に困っていて、何を課題ととらえているかをできる限り調べることが大切です。BtoBであれBtoCであれ、ネットを活用することで、様々な情報を得られる時代です。
すぐに目的の情報が得られない場合でも、顧客の課題について多くのパターンを想像・想定したうえで、検索や生成AIなどで得られる情報を集め、できる限り相手の実像をとらえることで、相手のニーズにより近づくことができるでしょう。ネットから得られる情報以外に、可能であればリアルな関係から得た情報も入手できれば(信頼性が担保されている必要がありますが)、大いに役立てたいものです。
そのうえで、顧客のニーズ・課題を解決できる自社の強みがどこにあるか、さらに、それをもっとも効果的な形で提示する方法を考えていきましょう。このように、しっかりとしたマーケティングに基づいた情報が、顧客にとっての「アンカー」となり、他社の製品やサービスとの比較において、自社の優位性を相対的に高める効果をもたらすことが、アンカリング効果の最大の利点です。
相手に情報を提示するタイミングも大切です。自社の強みや数字を最適なタイミングで相手に提示することで、アンカリング効果のメリットを最大限に役立てることができるでしょう。
営業や交渉の現場でのアンカリング効果活用例
ビジネスの現場でアンカリング効果を活用する場面としては、たとえば下記のような例が考えられます。
- ECにおいて、複数の価格帯を提示し、中間の価格帯の商品に手を伸ばしやすくする
- 車や住宅など高額商品の販売において、最初に示す金額に続いて「値引額」を提示する。
- 法人営業において、自社および営業担当者の優位性(例:取引実績)を示す情報を初期段階で提示する。
アンカリング効果をビジネスで活用する際の注意点
アンカリング効果は様々な営業活動を優位に進めやすくなるツールになりますが、注意が必要なケースや、むしろデメリットとなるケースもあるため、どのような場合がNGとなるのかについてポイントを押さえるとともに、ご自身の部署内でもしっかりと情報共有をしておく必要があります。注意が必要なケースの例を下にまとめました。
- 二重価格表示
- 相場を大きく外れた価格表示
- 情報を提示するタイミング
1. 二重価格表示
二重価格表示とは、「通常価格」を商品の本来の価格よりも高く表示し、本来の価格が「値引き価格」に見えるように操作することです。二重価格表示を行うと「景品表示法」に違反してしまいますので注意が必要です。(参考:消費者庁ホームページより https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/representation_regulation/double_price)
2. 相場を大きく外れた価格表示
これは、「通常10,000円のところを2,000円」など、常識を外れたような価格表示をすることです。結果的に顧客から不信感を持たれたり、商品そのものの価値が低いと思われたりする可能性があります。
3. 情報を提示するタイミング
情報を提示するタイミングによっては、自社の製品や価格の優位性を活かせない流れになりかねません。あらかじめしっかりとしたマーケティング戦略を立ててアンカリング効果につなげることで、自社製品の強みを最大限に活かす流れを作ることが大切です。
まとめ
いかがでしたか?アンカリング効果は、営業や交渉の場で適切に使うことで、ビジネスをよりスムーズに運ぶための効果的なツールの一つになります。自社の戦略だけでなく、他社の営業戦略も、アンカリング効果を軸にとらえなおすことで、新たな視点に気づくきっかけになるかもしれません。今後の営業活動に、ぜひアンカリング効果を役立ててみてください。