「ERPを導入すると、企業にとって良いことがあるらしい?」
「ERPを導入しないと、時代に取り残される?」
現在、ERPの導入を検討されている経営層の方々、そしてまたは調査を指示されたシステム部門の方々・・漠然と上記のような疑問をお持ちなのではないでしょうか?
ERPってそんなにいいものなのだろうか?
世の中には著名なERPパッケージを、あたかも宗教のように熱狂的に信じている人たちまでいます。
ここでは、そもそも「ERPとは?」からはじまり、導入の「メリット」「デメリット」を説明し、そんな皆様の疑問にお答えします。
目次
ERPとは?
ERP(Enterprise Resources Planning)
直訳すれば「企業資源計画」、ひと言で言ってしまえば企業活動にとっての資源「人、モノ、金」を管理する概念で、一般的にはそれを実現するためのシステム、またはパッケージソフトウェアのことを指します。
具体的には「販売管理」「在庫/購買管理」「生産管理」「財務会計」「管理会計」「人事/給与」のといった企業内の各業務のデータを一元的に管理し、「受注」「出荷」「発注」「製造指図」「在庫」と言ったような「モノ」の流れと、それに伴う「工数」など「人的資源」、「請求」「支払い」と言ったお金の流れを、一元的かつリアルタイムで管理し、いつでも企業全体の活動状況が把握でき、経営層にとってスピーディーな情報が提供されるシステムの仕組みの事を言います。
基幹システム(従来型)との違い
では、「基幹システム」と「ERP」ではなにが違うのでしょうか?
(※ERPの事を樹木の幹に例えて「基幹システム」と言う場合もあります、またその企業の最重要業務を対象とするシステムを意味する方もいますが、ここでは企業内の主だった各々の業務システムのことを「基幹システム」と呼ぶこととします。)
「基幹システム(従来型)」と「ERP」では、そもそもシステムの目的そのものが異なっています。
ERPが登場する以前は、システムは「販売業務なら販売システム」、「購買業務なら購買システム」(※ERPでも各モジュールの名前としては使用されてる場合はあります)といった単位で別々に設計/構築されてました。
あるいはまた「卸売業向システム」、「量販店向システム」などの業種単位に特化した形で設計/構築され、それに「会計システム」「人事/給与システム」を連結させて企業全体の業務をカバーするという方法が主に取られていました。
多くの場合、情報管理や操作性もバラバラになりがちで、企業活動全体の情報の統合も日に1回(日次処理)、場合によっては月末(月次処理)まで待たなければならないことが当たり前でした。
それに対し、ERPは企業活動の全体が一つのシステムであるという思想のもと設計/構築されており、情報の管理は一元的で、あるひとつの業務処理を行えば、その情報はリアルタイムでシステム全体に影響するという特徴を持っています。
このため、従来のシステムがそれまでの、各部門の人の手による作業をできるだけシステム化して効率良く行えるようにという、部分最適を目指したシステムに対して、ERPは企業活動全体の把握(情報の連携や集計)を効率よくスピーディにおこなえるようにと、全体最適を目指したシステムであり、その目的は異なっています。
時としてERP導入後に現場の担当者から「システムが使いにくくなった」「残業が増えた」などという、導入した経営層としては思いもかけなかったような意見が飛び出してくるのはこのためです。
従来のシステムは、人が便利に使う道具として発展してきましたが、ERPでは現場の担当者はデータ入力装置というシステムの道具という位置づけになり、部門によっては作業が増える場合があります。
この点は経営陣としては認識しておく必要があります。
ERPの種類
ERPの種類とひとことで言っても、その分け方にも何種類かあります。
導入形態(クラウド型、オンプレミス型・等)、企業規模(大企業向け、中小企業向け)等で分類する方法がありますが、ここでは業務の連携方法にフォーカスして分類する方法で説明いたします。
統合型
「販売管理」「在庫/購買管理」「生産管理」「財務会計」「管理会計」「人事/給与」などが1つになったERPの形態を言います。
この形態での代表的なものは、ドイツSAP社の統合型ERPパッケージ(旧)SAP/R3(現)S/4HANAでしょう。大企業を中心に、グローバルでは40万社、日本国内でも2,000社程度の導入実績があり、事実上統合型のスタンダードになっています。
コンポーネント型
「財務会計」や「人事/給与」などの、ある業務に絞った形で導入するタイプのERPです。統合型に較べ、短期間/低コストでの導入が可能で、必要に応じて導入コンポーネントを追加していくこともできます。
もともとは「会計業務」のパッケージからスタートし、徐々に販売管理や購買管理、その他の業務に幅を広げていったものが多く、PC向けだったものがクラサバからクラウド環境で使用できるように発展したものなど、中小の企業でも導入しやすい製品が多いのが特徴です。
アプリケーション型
「業務」のなかのもっと細かい「機能」(例:受注、発注)という単位で組み合わせられたERPの形態です。「販売」「購買」「生産」「会計」といった業務を横断する形で必要なだけの「機能」を組み合わせたERPの形態です。
ある程度、組み合わせに自由度がある場合や、業種に特化した形で組み合わせが決まっているものなどがあります。 自社の業種/業務にマッチしていれば、短期間/低コストで導入が可能です。
ERP導入のメリットとデメリット
ERP製品も現在多数販売されているため、一概にひっくるめてメリット、デメリットというのも難しいです。
ここでは一般的にERP製品全般にわたって共通的なメリット、デメリットについて説明いたします。
メリット
まずはメリットです、ERPを導入するための最大の理由となります。導入に際して、このメリットが享受できるような導入ができなければ何の意味もありません。
まずはしっかりと、この「強み」を抑えておいてください。
情報の一元管理
従来の個々の「基幹システム」を繋ぎ合わせたシステムに較べ、ERPの最大の特徴であり、最大のメリットは「情報の一元管理」と言うことがあげられます。
従来では「基幹システム(業務ごと)」バラバラに、または個々にデータ保持、集計がなされていたものが、一元的に管理されるということは、業務間の情報の伝達と、企業全体の活動の把握がリアルタイムにできるということを意味しています。
例えば、それまでは翌日にならなければできなかった他業務での後続の処理や、情報の集計、はたまた月末まで待たなければ知りえなかった情報がリアルタイムに把握できることは、企業活動のスピードアップと、変化の早い時代において、経営判断のスピードアップに大きなプラスとなります。
環境の変化に強い
ERPのそれぞれパッケージは、従来のものに較べカスタマイズ性(パラメータを変えることで動作を変えられる)が高くつくられています。
この点がERPが環境の変化に強いと言われる所以ですが、逆に言えば、十分なカスタマイズを行わないと自社の業務に合わせた運用ができないというデメリットも抱えています。
カスタマイズにより、業務形態(販売方法であったり生産方式であったり)の変化や組織形態(工場や支店といった)の変化に柔軟に対応することができます。現代のように変化の激しい時代において、企業の形も変化する必要とスピードが求められています。
そのたびにシステムを開発/改変するのでは多大なコストと時間を要しますが、ERPパッケージはほとんどが、カスタマイズの変更とテストによって対応が可能です。
その他
特に統合型ERPパッケージの中には多言語対応(例:日本語、英語、その他)しているものが多く、グローバル展開している企業にとっては大きなメリットの一つとなっています。
日本の企業で海外に支社を置く場合、また海外の企業で日本に支社を置くような場合でも、現地に即した言語や通貨、税制で、同一のシステムで運用することができます。
これにより、業務の一貫性や情報内容の統一、本社のガバナンス保持、人材の配置の柔軟性、教育、システム運用の共通化によりコストの削減に効果があります。
デメリット
良いことずくめに思えるERPですが、意外と大きなデメリットもあります。
導入に関してはこの事を十分に理解し、対策をとっておかないと企業の存続を揺るがしかねない大きな失敗ともなりかねません。以下にその代表的なものを記載します。
業務をパッケージに合わせる必要
「ERPを導入するには、自社の業務をERPに合わせる必要がある」これは導入の絶対条件になってきます。
ERPは概念であると同時に、実態としてはすべて「パッケージソフトウェア」として提供されています。
ERPの出現以前より「パッケージソフトウエア」(既製品)は存在していました。
例えば、ワープロソフトや表計算ソフト、ゲームや年賀状ソフトもパッケージソフトウェアの一種類といえます。
会計ソフトや給与計算ソフトといった「業務」を対象としたパッケージ、さらにスーパーマーケットや専門店、卸売業やホテルといったそれぞれの「業種」を対象としたパッケージソフトウェアとありますが、どれも導入した企業は、そのパッケージソフトを使うには業務を合わせるか、または一部の業務は手作業のままにするかして対応しなくてはなりません。
ある程度のカスタマイズはできるものの、この点はオーダーメードで自社向けに開発されたシステムとは大きく異なる点です。
ERPパッケージは、素のままではどこの企業にも導入できません。(テンプレートというひな形がある場合はあります)これはカスタマイズによりERPパッケージの機能を、業務の手順や使用する機能を選択し定義していくことによって、初めて導入企業が利用できるようになります。
では、自社のそれまでの業務や手順がERPパッケージの機能では実現できなかったらどうでしょう?
この場合は2つの方法があります。一つはそれまでの業務手順を廃し、ERPパッケージに合わせた業務手順に変えること。もう一つはAdd-on(アドオン)開発という、新たに機能を追加開発する方法です。
企業にとっては、業務手順そのものが他社との差別化として強みになっている場合もあります。そのような場合は、ERPの導入の方法いかんでは、その強みを消すことにもなりかねません。
導入・運用コスト
これまでの説明でもわかるとおり、ERPは買ってきてポンと使えるようなシステムではありません。これは正しく導入するには、それなりの時間とコストもかかるということを意味しています。また、パッケージソフトウェアですからライセンス料や保守料、その他にもサーバー費用も当然必要です。
ERP導入/導入後の主な費用
- ライセンス料、保守料
- 導入コンサルティング費用
- カスタマイズ設計/実装費用
- Add-on(追加開発)費用
- テスト費用
- ユーザー教育費用
- サーバー、関連ソフトウェア費用
- バージョンアップ対応費用
上記の中でもERPでは、特に4つの費用に関しては注意が必要です。
まず、「導入コンサル費用」ですが、概して専門のコンサルタントの単価は高めに設定されています。
次に「Add-on費用」ですが、従来の業務に合わせようとしたり、独自性を出そうとすると、どんどん増えてしまいます。
そして、意外とかかる場合があるのが「ユーザー教育費用」です。何度も話にでているように業務をパッケージに合わせる必要がでた場合、単にシステムの操作を教育するだけでなく、新たに業務の手順まで変えなければならなくなるため、業務フローや業務マニュアルまで変更、再教育の必要がでてきます。
最後に「バージョンアップ対応費用」です。オーダーメードのシステムと違いERPパッケージはWindowsなどと同様に、時間がたてばバージョンアップや旧バージョンの保守切れといった問題がでてきます。通常は通りいっぺんのテストだけで済む場合もありますが、場合によってはAdd-on部分に非互換が発生したり、機能が統廃合されたりして動かなくなってしまう場合があります。
このような場合には大規模なバージョンアップ対応が必要になり、Add-onプログラムの改修やカスタマイズの変更、それに伴う再テストといった具合に費用も時間もかかります。
まとめ
以上、ERPとは?から始まり、メリット/デメリットとざっくりとお話しさせていただきました。
いかがでしたでしょうか?
初めて聞く話や、意外に思われた方もいらっしゃるかも知れません。先に述べたとおり現在ではERPパッケージの製品も数多くあり、一概にメリットやデメリットということを語るのは乱暴なことかもしれませんが、ここで書かれていたようなことを一つのチェック項目として活用していただいてもよろしいのかと思います。
この記事をお読みになっている方々の多くは、これからERPの導入を控えていることと存じます。ERPは「神」でもなければ「仏」でもありません。(※ERPのユーザー会の中には本当に宗教団体かと思うような熱狂的な方々もいます・・)
ERPを導入しさえすれば、何でも願いがかなって、企業が幸せになれる・・というものでは決してありません。
ERP導入に際しては、自社の業務の流れや情報を把握し、さまざまなERP製品の情報を集め、導入した企業の方々(※特に実際に使ってる担当者、部門管理者、経営陣)の意見を聞いたり、実際に見学させて貰ったりすることをお勧めいたします。
是非とも、貴社のERP導入が成功いたしますように。