簿記2級商業簿記⑦:固定資産(その3)

簿記2級商業簿記⑦:固定資産(その3)についてご紹介します。
検定試験では第1問の仕訳問題、第2問の計算問題(結構難解)、第3問の決算問題に登場する重要事項になります。
YouTube動画もありますので、動画をご覧になりたい方はこちらです

固定資産(その3)

 4.臨時損失
 5.圧縮記帳

4.臨時損失

(1)火災や盗難によって資産が滅失した場合の損失を「臨時損失」といい、処理方法については、火災保険などの損害保険に加入しているか否かによって異なります。
①火災保険や損害保険に加入している場合
帳簿価額(取得原価―減価償却累計額)を、いったん未決算勘定で処理し、保険会社からのお連絡を待ちます。ネット試験では、火災未決算勘定や災害未決算勘定などが指定されるかもしれません。プルダウンで出てくる選択肢の中から最も適当な勘定科目を選択してください。そして、保険会社からの連絡により支払われる保険金額と未決算勘定の大小関係から火災損失勘定(費用)または災害損失勘定(費用)に振り替えたり、保険差益勘定(収益)に振り替えます。
②保険に加入していない場合
災害等の発生時に帳簿価額(取得原価―減価償却累計額)を火災損失勘定(費用)または災害損失勘定(費用)で処理します。保険未加入の場合は、この時点で費用額が確定することになります。
(2)取引仕訳
①火災保険や損害保険に加入している場合の取引仕訳についてみていきましょう。
1.当期首に火災が発生し建物(取得原価¥100,000、減価償却累計額¥60,000)が
焼失した。なお、限度額¥50,000の保険に加入している。
※取得原価¥100,000-減価償却累計額¥60,000=¥40,000(帳簿価額)⇒「未決算」
(借)減価償却累計額 60,000/(貸)建物 100,000
(借)未決算 40,000/
2-1.保険金¥30,000支払う旨の連絡があった。
 ※保険金額¥30,000<帳簿価額¥40,000の差額⇒「火災損失」勘定(費用)
(借)未収入金 30,000/(貸)未決算 40,000
(借)火災損失 10,000/
2-2.保険金¥50,000支払う旨の連絡があった。
 ※保険金額¥50,000>帳簿価額¥40,000の差額⇒「保険差益」勘定(収益)
(借)未収入金 50,000/(貸)未決算 40,000
/(貸)保険差益 10,000
②保険に加入していない場合の取引仕訳についてみていきましょう。
1. 当期首に火災が発生し建物(取得原価¥100,000、減価償却累計額¥60,000)が
焼失した。
※取得原価¥100,000-減価償却累計額¥60,000=¥40,000(帳簿価額)
⇒「火災損失」勘定(費用)
(借)減価償却累計額 60,000/(貸)建物 100,000
(借)火災損失 40,000/

③火災保険や損害保険に加入しているが、、、
1. 当期首に火災が発生し建物(取得原価¥100,000、減価償却累計額¥60,000)が
焼失した。なお、限度額¥30,000の保険に加入している。
※取得原価¥100,000-減価償却累計額¥60,000=¥40,000(帳簿価額)
※¥40,000(帳簿価額)>保険の限度額¥30,000
⇒¥10,000は保険でカバーされませんので、この時点で「火災損失」勘定(費用)が確定します。最近ではこの手の問題はあまり見かけませんが、ネット試験では注意が必要です。
(借)減価償却累計額 60,000/(貸)建物 100,000
(借)未決算 30,000/
(借)火災損失 10,000/
 ④保険差益について
  保険差益は収益の勘定になりますので、課税対象になります。税理士の先生が企業と顧問契約をするときに最初に行うことは火災保険、損害保険の見直しです。見直しの基準は、火災や災害発生時に保険差益が出ないように保険契約を変更します。例えば、帳簿価額が1,000万円の建物に2,000万円の保険をかけている場合、2,000万円の金額を1,000万円に変更するということです。保証金額が高いと掛け金もそれなりに高くなりますし、いざというときに満額保険金が下りた場合、保険差異は課税対象ですから、その分税金を多く払うことにあります。費用が多いことや税金を多く払うことは避けた方がいいですよね。
 なお、税理士先生は生命保険、損害保険の資格を取得し、保険会社と代理店契約をしているそうです。

5.圧縮記帳

(1)建設助成金を受け取った場合
①国から建設助成金を受け取った場合(国庫補助金)は、国庫補助金受贈益勘定(収益)で処理します。
②利用者(個人や会社)から建設資金を受け取った場合(工事負担金)は工事負担金受贈益勘定(収益)で処理します。例えば、山の上の一軒家にライフライン(電気、ガス、水道など)を引く場合、〇〇電力や△△ガスなどの施設に組み込まれることになりますが、公共性がありませんがライフラインを引く際の工事代金を個人や企業に工事負担金として請求することになります。
③保険差益(前項を参考にしてください)
火災等によって滅失した資産の帳簿価額(未決算勘定で処理)よりも保険会社から支払われる保険金額が多い場合に発生する収益を保険差益勘定で処理します。
建設助成金や保険差益は収益の勘定になりますので、このままでは課税対象になりますが、建設助成や保険差益はこの後に多額の支出を控えていることもあり、助成金などの受取時と同じ期間に税金を徴収することはちょっと気が引けるということから法人税法上、納税を先延ばし(課税の繰延べ)にしてくれる制度を設けてくれています。その制度を「圧縮記帳」と呼んでいます。
(2)圧縮記帳を行わない場合(納税の先延ばし(課税の繰延べ)を選択しない場合)
①当期首に国庫補助金¥25,000を現金で受け取った。
(借)現金 25,000/(貸)国庫補助金受贈益 25,000
 ※「国庫補助金受贈益」勘定は収益ですから課税対象となります。
②備品¥50,000を購入し現金(上記①含む)で支払った。
(借)備品 50,000/(貸)現金 50,000
③決算を迎え減価償却(定額法、耐用年数5年)を行う。
¥50,000÷5年=¥10,000
(借)減価償却費 10,000/(貸)減価償却累計額 10,000
 ※「減価償却費」勘定は費用ですから課税免除となります。
(3)圧縮記帳を行う場合
①当期首に国庫補助金¥25,000を現金で受け取った。
(借)現金 25,000/(貸)国庫補助金受贈益 25,000
②備品¥50,000を購入し現金(上記①含む)で支払った。
(借)備品 50,000/(貸)現金 50,000
③圧縮記帳を行う。※直接減額方式
 ※「国庫補助金受贈益」勘定(収益)と同額の「固定資産圧縮損」勘定(費用)を立てて課税を回避します。法人税法が認めた「課税の繰延べ」です。
(借)固定資産圧縮損 25,000/(貸)備品 25,000
 ※国庫補助金受贈益(収益)と固定資産圧縮損(費用)が相殺されて見かけ上なくなりますが、備品勘定を減額することによって決算時に行う減価償却費勘定(費用)の金額が減額されることになります。その結果、耐用年数の期間の減価償却費が減額された分だけ税引前当期純利益が増加することになります。
④決算を迎え減価償却(定額法、耐用年数5年)を行う。
(¥50,000-¥25,000)÷5年=¥5,000
(借)減価償却費  5,000/(貸)減価償却累計額  5,000
 ※圧縮記帳した¥25,000だけ備品の額が減額されますので「減価償却費」勘定(費用)が¥5,000少なくなります。減価償却費¥5,000が耐用年数5年間=△¥25,000少なくなることから5年間で税引前当期純利益が¥25,000増加することになります。圧縮記帳しないときは最初の年に国庫補助金受贈益¥25,000(収益)に法人税が課税されますが、圧縮記帳を行うときは年¥5,000ずつ5年間にわたって法人税が課税されることになります。ですから圧縮記帳は課税の先延ばしである「課税の繰延べ」と呼ばれています。2級においては、建設助成金を国からもらう「国庫補助金受贈益」が多く出題されています。保険差益は1級の出題範囲ですのでここでは割愛させていただきます。

【最後に】
最後まで簿記2級商業簿記⑦:固定資産(その3)を読んでいただきありがとうございます。
今回の題材は毎回出題されるものではありませんが、知らないと得点できないが、知っていれば得点できるという特殊論点となります。